序  本書は、アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)の機械翻訳白書編集委員会が21世 紀の機械翻訳のビジョンを示すためにまとめたものである。機械翻訳白書編集 委員会は、AAMT 内の全ての委員会等からそれぞれの代表が委員として参加し、 1998年12月にAAMT内に設置された。その中で、特に、技術的な部分に関係する 三つの委員会等が実際の執筆を分担して担当した。それらの三つの委員会等と は、技術動向調査委員会、市場動向調査委員会、およびネットワーク翻訳研究 会である。当初は、2000年3月に本書を発行する予定であったが、執筆に手間 取ったため今期の発行となった。  社会の国際化の一層の進展、およびインターネットの急速な普及等により異 なる言語で情報の送受をする機会や外国語で書かれたWebにアクセスする機会 が増え、それを支援するための多言語処理・機械翻訳の需要が従来にもまして 高まってきている。インターネット社会における多言語処理のこのようなター ニングポイントにおける急務な要請に応えるため、社会的・技術的な現状と問 題点を調査・分析して整理し、国際的な観点も踏まえて、今後の技術的飛躍と サービスの向上・新サービスの開発を目指して、国家的なレベルで重点的に取 り組むべき課題を提言することが本書を発行する主なるねらいである。その課 題として、本書は、クロスリンガル・インフォーメーションテクノロジ (CLINT = Cross Lingual INformation Technology) の研究・開発を提言する。 CLINTは、グローバリゼーション、ボーダーレス、インターナショナル、イン ターネットという21世紀の社会において、言語バリアフリーを実現する最も重 要なインフラストラクチャである。ここでは、特に、アジア言語のCLINTを提 言する。  従来、日本電子工業振興協会 (JEIDA) の機械翻訳システム調査専門委員会 (長尾真委員長) においてそれぞれの時期におけるこのようなねらいをまとめ た報告書をいくつか発行してきた。古くは、「機械翻訳システムの調査研究」 の報告書 (57-C-438、pp26-28、1982年3月)で国家的な観点からの機械翻訳へ の取り組みの必要性の提言を行い、具体的な問題点を指摘した。また、「機械 翻訳の開発と実用に関する実態調査 : 日本における機械翻訳の実態のALP ACレポートに照らした一考察 … 翻訳における人間とコンピュータの調和を 目指して …」 (pp1-223、1989年4月) およびその英訳「A Japanese View of Machine Translation in Light of the Considerations and Recommendations Reported by ALPAC, U.S.A. … Toward the Translation Harmonization of Humans and Computers …」 (pp1-197、1989年4月) を発行し、機械翻訳の技 術とシステム化の状況をまとめるとともに、さらなる取り組みについての提言 を行ってきた。AAMTは実質的にこの機械翻訳システム調査専門委員会を引き継 ぐ形で発足したものである。これらの報告書等の発行から10年以上が過ぎ、イ ンターネットというボーダーレスなグローバルコミュニケーション手段が急速 に普及し、それらにより社会構造も変わろうとしている21世紀を迎えるにあた り、本書はあらためて次世代機械翻訳へむけての提言を行うものである。 2000年11月        アジア太平洋機械翻訳協会         機械翻訳白書編集委員会           委員長  野村浩郷